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バセドウ病における眼症状について

2007.02.16 (Fri)


バセドウ病における眼症状について



Ⅰ.序
 日本甲状腺学会におけるバセドウ病の診断ガイドライン(第7次案)によれば、バセドウ病の診断ガイドラインは以下のように規定されている。
a)臨床所見
  1. 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
  2. びまん性甲状腺腫大
  3. 眼球突出または特有の眼症状
 b)検査所見
  1. 遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
  2. TSH低値(0.1μU/ml以下)
  3. 抗TSH受容体抗体(TRAb, TBII)陽性、または刺激抗体(TSAb)陽性
  4.放射線ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性
1)バセドウ病:a)の1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの
2)確からしいバセドウ病:a)の1つ以上に加えて、b)の1、2、3を有するもの
3)バセドウ病の疑い:a)の1つ以上に加えて、b)の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ヶ月以上続くもの

 上記の通り、診断ガイドラインの臨床所見の1つとして眼球突出および眼症状の存在がみとめられることを挙げている。さらに、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎、慢性甲状腺炎(橋本病)では眼症状が臨床所見の基準として記載されておらず、これらの鑑別にも有用であると考えられる。そこで、本稿はバセドウ病における眼症状について記したいと思う。

Ⅱ.バセドウ病における眼症状とは
 バセドウ病にみられる眼症状とは、以下のようなものである。
1)眼球突出 exophthalmos
外眼筋の筋繊維ではなく結合組織が増生することで眼球が突出する。線維芽細胞が増加してコラーゲンと glycosaminoglycanが蓄積することによって間質の浮腫が生じる。ヘルテル眼突計で17mm以上を眼球突出とする(眼球突出の病型に関しては、Ⅳ章に記す)。
2)Graefe(グレーフェ)徴候
眼球を上方視から下方視に移行させる時、上眼瞼の動きが遅れるため上眼瞼と黒目の間に白目が残ってみえる状態をいう。甲状腺中毒症のため、交感神経系が刺激されて起こる症状である(肝硬変,精神病でみられることもある)。
3)Moebius(メビウス)徴候
両眼輻輳失調をいう。屈折異常,神経衰弱などでもみられ、必ずしもBasedow病に特有ではない。
4)Stellwag(ステルワーグ)徴候
上眼瞼挙筋および下眼瞼筋の緊張増加により生じる.不随意的な瞬目が数分間に1回ぐらいと,非常に減少し,しかも不完全で痙攣性であることをいう
5)Dalrymple(ダルリンプル)徴候
正面視において上眼瞼が過度に挙上した状態をいう。上眼瞼挙筋の弛緩障害や交感神経の刺激状態により起こる。
6)眼球運動の制限
もっとも影響を受ける外眼筋は内直筋と下直筋であり、外眼筋の線維化により眼球の上下運動と左右 運動が障害される。この結果、輻輳が制限される。
7)複視
特に下直筋が最初に障害されて上方注視の際に複視を来たす。
8)proptosis of the globes
眼瞼浮腫

Ⅲ.眼症状の実際1)2)
 眼症状について、どの程度の出現頻度で起こりうるのか、以下に記す。
①眼球突出 exophthalmos(60%)
②眼球運動制限(40%):下直筋、内直筋に病変が初発することから、初期には上転・外転制限が多いとされている。眼筋の伸展制限によるforced duction test陽性。上方視で上転制限が起こる。
③眼瞼の異常:Dalryple兆候(上眼瞼後退 lid retraction:90%)、Gaefe兆候(下方視で下眼瞼が充分に下がらす白目が露出 lid lag)、眼瞼腫脹(30%:初期に眼瞼炎と診断されることが多い)右眼瞼後退lid rectraction
④角膜障害(涙液分泌現象、瞬目減少、上眼瞼後退による)、結膜充血(30%)、結膜浮腫(20%)

Ⅳ.眼球突出の病型
(1)脂肪組織型と眼筋型
 甲状腺眼症の発症年齢は、20歳代の若年者と40歳前後の中高年の2つのピークがあり、また二つの病型と関連している。
①脂肪組織型:20歳代に多く脂肪組織の変化が主体で画像上眼筋の肥大が明らかでない。治療効果が比較的少ない。
②眼筋型;40歳前後に多く外眼筋の肥大が著明。鬱血性の急性反応を伴い易い。放射線治療が比較的有効。
(2)Euthyroid Graves
甲状腺機能(臨床所見・ホルモン値)が正常で甲状腺眼症が存在する。眼窩病変が甲状腺病変に先んじた場合、甲状腺組織の破壊によりホルモン分泌能低下した場合、(まだ説であるが)甲状腺機能を修飾しないタイプの自己抗体によるもの、真に眼窩病変のみの場合がある。TSAb高値が診断の助けになる(即ち、TRAb陰性でTSAb陽性の比率が高い)。甲状腺機能がむしろ低下しているケースをhypothyroid Gravesと呼ぶこともある。
(3)悪性眼球突出 malignant exophthalmos
急性に著明に眼球突出と眼球運動障害が起こる激症型で、活動性の把握には最近の
眼球突出変化率、眼筋のMRI T2高値、TSAb高値、最近ではosteoscanの集積などが
ステロイド+放射線照射の適応のパラメーターとなるとも言われる。
厚生症特定疾患研究班による悪性眼球突出症の診断手引き
Ⅰ主症状:
 1)眼球突出:突出度20mm以上。
 2)眼球結膜の充血と浮腫状腫張(chemosis)。
 3)複視。
 4)角膜の潰瘍形成、混濁、壊死又は穿孔。
 5)視力低下(<0.3)ないし喪失、または視野欠損
Ⅱ除外規定:眼窩内の炎症、肉芽腫、腫瘍、Pyocele、Mucocele、頚動脈-海綿洞癢などによる二次性眼球突出が否定されること。
(診断基準):上記症状の内、1)および2)を有するものを本症として、さらに、3)、4)または5)を呈するに至ったものを重症とする。

(4)甲状腺性視神経症 dysthyroid optic neuropathy;DON
5%に眼窩先端部付近で肥大外眼筋が視神経を圧迫し視神経障害を合併する。乳頭浮腫を来すことが多い。至急ステロイド+放射線照射により視機能を保存する必要がある。

Ⅴ.眼球突出に対する治療について
①甲状腺機能のコントロール
 現実には甲状腺機能とは関係なく眼窩病変は変動し、甲状腺機能のコントロール状況と眼症の病勢は相関しない。しかし、甲状腺機能低下症となると、眼窩組織の含水量が増加して眼球突出が二次的に悪化することがある。
②急性期-軽症例
 自然緩寛もあるので軽症例に関しては対症療法で経過観察する。
 ・角膜障害に対する治療。
 ・複視に対するプリズム眼鏡など非観血的対症療法。
 ・眼瞼挙上に対しボツリヌスA型毒素を眼瞼挙筋に効かすべく上眼瞼中央に注入。
 ・喫煙者には禁煙を勧める(喫煙により甲状腺眼症の危険は約3倍(7倍という報
  告もある)増加すると言われている)。
 ・眼瞼浮腫に対しては塩分制限、就眠時枕を高くし頭位挙上させるなどの工夫。
③急性期―重症例
 ステロイド大量投与:
 免疫抑制、抗炎症、線維芽細胞増殖抑制で60%以上に奏功。急性増悪するものに
病勢を抑えるため大量投与を行う。施設によって方法が異なるが、主に①ステロイ
ド・パルス3クール、②ベタメサゾン12mg(プレドニン換算120mg)DIVから漸減の
二つの方法がある。漫然とした長期内服は効果が少ないだけでなく離脱困難や副作
用の出現を見るので勧められない、とされている。1)

1)Bartelena L. et al. Management of Graves’Ophthalmopathy: Reality and Perspective. Endocrine Reviews 21: 168-199, 2000.
2)Bradley EA: Graves ophthalmopathy. Cuurent Opinion of Ophthalmology 12: 347-351, 2001.



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