抗核抗体に関する検査法について
2007.02.16 (Fri)
抗核抗体に関する検査法について
Ⅰ.序
抗核抗体(antinuclear antibody)は、真核細胞の種々の核成分を特異抗原とする自己抗体で、全身性エリテマトーデスなど、種々の自己免疫疾患患者の血清中に出現する。抗核抗体には、対応する特異抗原によって種々のものが同定されているが、疾患特異性の高い抗体も多く、また、抗体価が疾患活動性を反映する場合も少ないことから、その臨床的有用性は高い、と考えられる。以下では、抗核抗体の検査法、臨床的意義などに関して記す。
Ⅱ.測定法の大別
①蛍光発光体:現在最も広く普及している測定法であり、スクリーニング検査として適しているだけでなく、陽性検体における染色パターンによってはある程度まで対応抗原の推定が可能であり、診断的価値も高い。一般的には核材としてヒト末梢血白血球、ラット肝細胞、HEp-2細胞、Wil-2細胞などを用いる。核材をスライドグラス上に固定した後、稀釈した被験血清を反応させると、抗核抗体が存在する場合にはこれは核成分に結合する。洗浄後、さらに蛍光色素であるFITCを標識した抗ヒト免疫グロブリン抗体を反応させると、これは核成分に結合した抗核抗体に結合し、蛍光顕微鏡下で核は蛍光を発するようになる。抗核抗体の抗体価は被験血清が陽性を示す最終希釈倍数で表示する。染色のパターンは、以下のように大別される。
1)辺縁型peripheral (rim, shaggy) pattern:核の辺縁部に強い蛍光を認めるもの。
2)均一型homogeneous pattern(diffuse pattern):核全体に均一な蛍光を認めるもの。
3)斑紋型speckled pattern:核に斑紋状の蛍光が観察されるもの。
4)核小体型 nucleolar pattern:核小体のみが特異的に染色されるもの。
5)散在斑紋型またはセントロメア型discrete speckled or cetromere pattern
以下の表のように、いずれの染色パターンからも対応する抗原を推定することが可能である。
表1:抗核抗体基本染色パターンと関連疾患

②ゲル内沈降反応:核から抽出した可溶性抗原と被験血清をOuchterlony法によってアガロースゲル内で反応させると、被験血清に可溶性核抗原(extractable nuclear antigen、ENA:nuclear acidic protein antigen ANAPA:nRNP、Sm、SS-A、SS-B、Scl-70、Ki、Jo-1、Muなどを含む)に対する抗体が存在する場合には、両者の間に沈降線が形成される。そして、既知の特定の抗核抗体を含む血清および被験血清が核抗原との間に形成するそれぞれの沈降線の一致性によって、被験血清中に含まれる抗核抗体の種類を同定することが可能である。感度の点では劣るものの診断上の有用性はきわめて高いことから、蛍光抗体法における抗核抗体陽性(特にspeckled pattern)検体の二次検査として行われる。
③ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素抗体法(ELISA)および受身血球凝集反応(PHA):精製した特異的核抗原を用い、これらの方法を応用して抗核抗体を検出することが可能である。DNA、ヒストン、可溶性核抗原(nRNP、Sm)が抗原として用いられており、これらに対応する抗体を特異的に、また定量的に測定でき、感度の点でも優れている。
Ⅲ.自己免疫疾患の疑われる患者への検査および臨床的意義
自己免疫疾患が疑われる場合には、まずスクリーニング検査として蛍光抗体法による抗核抗体検査を行う。この方法による検出感度は高いが、特異性の点では必ずしも十分でないために、陽性の場合には二次検査として、特異性に優れたゲル内沈降反応や、検出される抗体の種類は限定されるものの、特異性、感度、定量性に優れたRIA、ELISA、PHAによる測定を行う。
蛍光抗体法においては、使用する核材によって検出感度が異なることがある。例えば、抗セントロメア抗体の検出にはHEp-2、Wil-2など培養細胞が適しており、抗SS-A抗体の検出にはヒト末梢血白血球が適している、と考えられている。
抗核抗体が陽性となる疾患は、上表1の通りである。いずれもその病態に自己免疫異常が深く関与している疾患であり、特に、未治療のSLE、PSS、SjS、MCTD、overlap sy-n-drome,DILEにおける陽性率は極めて高く、用いられる核材によって差はあるものの、蛍光抗体法の場合には70~90%以上の症例で陽性となる、とされている1)。
また、上表より、蛍光抗体法における染色パターンから推定できる特異核抗原と、対応する疾患を示す。診断をすすめるに際しては、種々の臨床症状と検査所見を総合的に理解する必要があることはいうまでもないが、この様に、抗核抗体の染色パターンからも、考慮すべき疾患を想起することが可能である。
さらに、抗核抗体の種類が特定できた場合には、鑑別の対象とすべき疾患はさらに限定されてくる。これらの内、いくつかの抗体は特定の疾患とほぼ1対1の対応を成しており、疾患標識抗体と呼ばれる。これらが検出された場合には、診断の確度は大幅に高まると考えられる。
1)宮脇昌二: 間接蛍光抗体法による抗核抗体検査の現状と問題点. 日本臨床免疫学会会誌, 21: 1-10, 1998
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