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Helicobacter pyloriの検査法および治療について

2007.02.16 (Fri)


Helicobacter pyloriの検査法および治療について



Ⅰ.序
 Helicobacter pyloriは、1983年Marshallによってヒトの胃内より分離された。大きさ3×0.5μmの単極あるいは両極に数本の鞭毛をもつらせん状のグラム陰性桿菌である。Helicobacter pyloriが臨床家の注目を集めたのは、この菌に感染すると胃粘膜に好中球、リンパ球浸潤をきたし急性、慢性胃炎をおこすことが判明したからであった。さらにH.
pylori を除菌治療すると消化性潰瘍(胃十二指腸潰瘍)の再発が劇的に減少することが明らかになり,消化性潰瘍の治療に抗生剤を使うという潰瘍治療に変化をもたらした。すなわち、ヒトに対する病原性として、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因菌と考えられ、胃癌との関連1)も指摘されている。Helicobacter pylori発見者であるMarshall は胃潰瘍の70%,十二指腸潰瘍の92% はH. pylori が原因と考えている。残りの大部分はNSAIDs(非ステロイド消炎鎮痛剤)が原因だとしている2)。消化性潰瘍は再発を繰り返すのが特徴であるが、Helicobacter pyloriの除菌治療後の再発率は十二指腸潰瘍で5% 程度、胃潰瘍で10% 程度というのがおおよそ諸家の結果である。以下では、そのHelicobacter pyloriの検査について記す。

Ⅱ.検査法の種類および概説
)検査要件
 除菌治療の適応となるのは、以下のようなものである3)。
 1)胃潰瘍、十二指腸潰瘍 2)胃MALTリンパ腫 3)早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)後胃 4)萎縮性胃炎 5)胃過形成性ポリープ 6)Non-ulcer dyspepsia(NUD) 7)Gastro-Esophageal Refl ux Disease(GERD) 8)消化管以外の疾患

ヘリコバクター・ピロリ感染の有無の診断には下記の検査法のいずれかを用いる。他の一般的な細菌感染症の場合と同様な、
 (1)病原体そのものの存在を検出する
 (2)その病原体の感染によって患者の血液中に産生された抗体の量を測定する
という原理によるものの他に、本菌に独特な検査方法として、
 (3)本菌が有するウレアーゼの酵素活性を測定するもの、
 も利用されている。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでも、これらの診断法が採用されている。ガイドラインによれば、必要となる前提は、
①H. pylori 感染診断は除菌治療を前提として行われるべきである。
 ②除菌治療前および除菌治療後のH. pylori 感染の診断にあたっては、下記の検査法のいずれかを用いる(複数であれば感染診断の精度はさらに高くなる)。それぞれの検査法には長所や短所があるので、その特徴を理解した上で選択する。
 ③除菌判定は除菌治療薬中止後4 週以降に行う。

というものである。
)検査法
・内視鏡による生検組織を必要とする検査
 迅速ウレアーゼ試験(rapid urease test, RUT):尿素とpH指示薬が混入された検査試薬内に、胃生検組織を入れる。胃生検組織中にヘリコバクター・ピロリが存在する場合には、本菌が有するウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアが生じる。これに伴う検査薬のpHの上昇の有無を、pH指示薬の色調変化で確認する。この検査によって本菌の存在が間接的に診断できる。

 組織鏡検法:組織切片をHE(ヘマトキシリン-エオジン)染色あるいはギムザ染色により染色し、顕微鏡で観察する。直接観察することによりヘリコバクター・ピロリの存在を診断できる。また、培養不能でウレアーゼ活性ももたないcoccoid form(球状菌)の状態でも診断できるという長所がある。

 培養法:胃生検切片からの菌の分離培養によって、ヘリコバクター・ピロリの存在を確認する。この検査法の長所は菌株を純培養し入手できる点であり、この菌株を遺伝子診断など他の検査に利用することができる。欠点は培養には5日~7日を要する点である。

・内視鏡による生検組織を必要としない検査
尿素呼気テスト(urea breath test, UBT):13C-尿素を含んだ検査薬を内服し、服用前後で呼気に含まれる13C-二酸化炭素の量を比較する。本菌に感染していると、そのウレアーゼによって胃内で尿素がアンモニアと二酸化炭素に分解されて、呼気中の二酸化炭素における13Cの含有量が、非感染時より大きく増加するため、間接的な診断ができる。検査薬服用の20分後の13C-二酸化炭素の上昇が2.4パーセク以上の場合に、本菌による感染があるものとするなどの基準値が設けられている。

血中・尿中抗H. pylori IgG抗体検査:ヘリコバクター・ピロリが感染すると、本菌に対する抗体(H.pylori抗体)が患者の血液中に産生される。血液や尿を用いてこの抗体の量を測定し、H.pylori抗体が高値であれば本菌に感染していることを診断出来る。尿を検体とする場合は判定が迅速で20分程度で判定が可能である。しかし、感染後の抗体価低下には時間がかかるため感染後すぐでは偽陽性が出やすい。

便中H. pylori抗原検査:診断や研究用途に作られたヘリコバクター・ピロリに対する抗体を用いた抗原抗体反応による検査。この抗体が、生きた菌だけでなく死菌なども抗原(H. pylori抗原)として認識し、特異的に反応することを利用し、糞便中H. pylori抗原の有無を判定する。非侵襲的に本菌の存在を判定できるという長所がある。

Ⅲ.各検査の特徴および相互関係について
a.迅速ウレアーゼ試験:迅速性に優れ、簡便で精度は高いが、検査結果を保存することはできない。一般的に治療後の感度には限界がある4,5)。迅速ウレアーゼ試験を行う場合は、鏡検用の生検組織の採取を同時に行うことが望ましい。迅速ウレアーゼ試験陽性の場合はH. pylori 感染陽性と判定して差し支えない4,5)。迅速ウレアーゼ試験陰性の場合は、組織鏡検を併用することが望ましい。
b.鏡検法:検査結果の保存性が高く、H. pylori の存在の他に組織診断(炎症、腸上皮化生、萎縮の程度の評価や疾患の組織診断)を合わせてできる6,7)。H&E 染色にギムザ染色等の特殊染色を併用することが望ましい。H. pylori と他の細菌の鑑別やcoccoid form の診断には、免疫染色が有用である8)。

c.培養法: H. pylori の唯一の直接的証明法である。特異性に優れ、菌株の保存が可能で、菌株のタイピングや抗菌薬の感受性試験検査が可能である。感受性試験は可能な限り行うことが望ましい。

d.尿素呼気試験:非侵襲的、簡便で感度、特異度ともに高い9,10)。小児の検査が可能である。尿素呼気試験陰性の場合は、除菌成功の信頼性は高い。潰瘍治療薬の服用中および服用中止直後には偽陰性をみることが少なくない11)。除菌判定時の尿素呼気試験の測定値がカットオフ値近傍の陽性値を示す場合には、偽陽性症例があるので除菌判定にあたって、他の検査法の併用、あるいは経過観察を行い尿素呼気試験により再検することが望ましい。

e.抗H. pylori 抗体測定(血清、全血、尿、唾液):抗H. pylori 抗体は、血清、全血、尿あるいは唾液を用いて測定可能である。抗体が陰性の時は、感染初期や免疫不全などの特殊な場合を除き、H. pylori 感染陰性と診断できる。小児では、精度が低下する12,13)。除菌成功後も抗体の陰性化あるいは有意な低下には1年以上を要することがあるため、除菌の成否を早く知りたい場合には適さない14)。しかし、抗体の陰性化が証明できれば除菌成功の可能性はより高いと判断できる。

f.便中H. pylori 抗原測定:非侵襲的、簡便で、小児の検査が可能である。除菌前の感染診断においては感度、特異度ともに高いとされている。除菌判定においても信頼性が高いが、偽陰性例がおこりうるので注意が必要である。

g.PPI 等、H.pylori に対する静菌作用を有する薬剤が投与されている場合、除菌前・後の感染診断の実施に当たっては、当該静菌作用を有する薬剤投与中止または終了後4週以降に行う。

Ⅳ.治療
H. pylori 除菌治療の第一選択薬:プロトンポンプ阻害薬(PPI)+ アモキシシリン(AMPC)+ クラリスロマイシン(CAM)を1 週間投与する3 剤併用療法を、第一選択とする。
現時点での保険適用治療薬は、以下のA, B の2 法である。
A.
1.ランソプラゾール(30mg) 1Cap を1 日2 回
2.アモキシシリン(250mg) 3Cap(錠)を1 日2 回
3.クラリスロマイシン(200mg) 1 錠または2 錠を1 日2 回
以上1-3 の3 剤を朝、夕食後に1 週間投与する。
(なお、この処方では、1 日の服用分すべてが1 シートに納められたパック製剤がある。)

B.
1.オメプラゾール(20mg) 1 錠を1 日2 回
2.アモキシシリン(250mg) 3Cap(錠)を1 日2 回
3.クラリスロマイシン(200mg) 2 錠を1 日2 回
以上1-3 の3 剤を朝、夕食後に1 週間投与する。


・副作用について14,15)
除菌治療に伴う副作用が14.8-66.4%に報告されている。最も多いものが下痢、軟便で約10-30%、味覚異常、舌炎、口内炎が5-15%、皮疹2-5%、その他腹痛、放庇、腹鳴、便秘、頭痛、頭重感、肝機能障害、めまい、掻痒感等の報告がある。下痢が心配な症例では、整腸剤を併用すると下痢の予防効果があると思われる。また、2-5%に治療中止となるような、程度の強い副作用が発生している(下痢、発熱、発疹、喉頭浮腫、出血性腸炎)。

・薬剤耐性菌の問題16,17)
本邦ではCAM 耐性菌の頻度は10-15%とされており、近年増加傾向にある。耐性菌感染例では除菌率が著明に低下し、除菌不成功後にはCAM 耐性獲得が生じることが報告されており、安易に不充分な除菌治療が行われることは、耐性菌の出現を増加させることが考えられる。さらに、過去にマクロライド系薬剤の長期使用があった症例は、菌がCAM に対して、薬剤耐性を獲得している可能性があるので注意を要する。

1)Scheiman JM, Cutler AF: Helicobacter pylori and gastric cancer. Am J Med 106 (2): 222-6, 1999.
2)Marshall BJ: Helicobacter pylori . Am J Gastroenterol 1994; 89: S 116―S 128
3)日本ヘリコバクター学会 ガイドライン 2003.
4)Murata H, Kawano S, Tsuji S, et al. Evaluation of the PyloriTek test for detection of Helicobacter pylori
infection in cases with and without eradication therapy. Am J Gastroenterol 1998; 93: 2102-2105
5)Nishikawa K, Sugiyama T, Kato M, et al. A prospective evaluation of new rapid urease tests before and after
eradication treatment of Helicobacter pylori, in comparison with histology, culture and 13C-urea breath test.
Gastrointest Endosc 2000; 51: 164-168
6)Hui PK, Chan WY, Cheung PS, et al. Pathologic changes of gastric mucosa colonized by Helicobacter pylori. Hum Pathol 1992; 23: 548-556
7)Dixon MF, Genta RM, Yardley JH, et al. Classifi cation and grading of gastritis. The updated Sydney System.International Workshop on the Histopathology of Gastritis, Houston 1994. Am J Surg Pathol 1996; 20:1161-1181
8)Jonkers D, Stobberingh E, de Bruine A, et al. Evaluation of immunohistochemistry for the detection of Helicobacter pylori in gastric mucosal biopsies. J Infect 1997; 35: 149-154
9)Graham DY, Klein PD, Evans DJ, Jr,et al. Campylobacter pylori detected noninvasively by the 13C-urea breath test. Lancet 1987; 1: 1174-1177
10)Slomianski A, Schubert T, Cutler AF. 13C-urea breath test to confi rm eradication of Helicobacter pylori. Am J Gastroenterol 1995; 90: 224-226
11)Miwa H, Ohkura R, Nagahara A, et al. [13C]-urea breath test for assessment of cure of Helicobacter pylori infection at 1 month after treatment. J Clin Gastroenterol 1998; 27: S150-153
12)Raymond J, Kalach N, Bergeret M, et al. Evaluation of a serological test for diagnosis of Helicobacter pylori infection in children. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 1996; 15: 415-417
13)Corvaglia L, Bontems P, Devaster JM, et al. Accuracy of serology and 13C-urea breath test for detection of Helicobacter pylori in children. Pediatr Infect Dis J 1999; 18: 976-979
14)Miwa H, Okura R, Murai T, et al: Impact of rabeprazole, a new proton pump inhibitor, in triple therapy for Helicobacter pylori infection. Aliment Pharmacol Ther 1999; 13: 741-746
15)Asaka M, Sugiyama T, Kato M, et al. A multicenter, double-blind study on the triple therapy with lansoprazole/amoxycillin/clarithromycin for eradication of Helicobacter pylori in Japanese peptic ulcer patients. Helicobacter 2001; 6: 254-261
16)小林寅、戸田陽代、長谷川美幸、他:胃潰瘍患者粘膜より分離したHelicobacter pylori の各種抗菌薬感受性.日化療会誌 1996; 44: 719-722
17)村上和成、藤岡利生 わが国におけるHelicobacter pylori 除菌治療と薬剤耐性 Helicobacter Research 1998; 2: 423-428
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