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摂食障害の認知行動療法について

2006.11.23 (Thu)


摂食障害の認知行動療法について



【摂食障害とは】
 摂食障害eating disorderはDSM-Ⅳでは、307.1 神経性無食欲症(制限型,むしゃ食い型/排出型),神経性大食症(排出型,非排出型),特定不能の摂食障害に分類されているが、これらのうちの代表は神経性食欲不振症と神経性大食症である。またICD‐10では、生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群の中に摂食障害が位置づけされ、その下位分類として神経性食欲不振症,非定型神経性食欲不振症,神経性大食症,非定型神経性大食症,他の心理的障害と関連した過食や嘔吐,他の摂食障害,摂食障害特定不能のものに分けられている。
 神経性食欲不振症では、体重が期待される値より少なくとも15%以上下まわり、肥満への恐怖が存在する。体重減少は「太る食物」を避け、視床下部下垂体性腺系を含む広範な内分泌系の障害として女性では無月経がみられ、成長ホルモンの上昇や甲状腺ホルモンによる末梢の代謝の変化やインスリン分泌の異常が認められることがある。
 一方、神経性大食症は発作的に繰り返される過食と体重のコントロールに過度に没頭することが特徴で、発症年齢は神経性食欲不振症よりもやや高い傾向がみられる。過食のあと嘔吐を繰り返すことにより電解質の異常や身体的合併症が生じることがある。

【認知行動療法について】
 行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて治療を行なう心理療法を総称して、認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy;CBT)と呼ぶ。認知行動療法とは、出来事に対するクライエントの否定的な考え方に焦点を当て、そういった認知を再検討し、変えていくことを主眼とする行動療法である。ベック(Beck,A.T.)の認知療法、マイケンバウム(Michenbaum,D.H.)のストレス免疫訓練、エリス(Ellis,A.)の合理情動行動療法(REBT)など、それぞれ別個に提唱され発展してきたこのような新しい行動療法の総称である。
 否定的な考え方とは、「自動的思考」(ある場面に直面した時「自動的」に頭の中に思い浮かんでくる考えのことである。これは場面特有のものであり、日常生活の中で出くわす問題となる場面の数だけ多様な自動的思考があるといえる)「スキーマ」(個人の中にある、かなり一貫した近く・認知の構えのこと。多様な自動的思考に共通してみられる思考内容で、背景にある思い込みの背後にあるのがスキーマである)、「不合理な信念」などと呼ばれている。また、否定的認知の3要素とは、
①過度の自責感や罪悪感といった自己に対する否定的な見方
②ペシミズムを代表とする自己を取り巻く世界に対する否定的な見方
③絶望感を中心とした将来に対する否定的な見方
 などである。
 この療法における介入の方法は、大きく分けて、認知的技法、情動的技法、行動的技法があり、これらの技法を総合的に用いて、治療パッケージを形成して治療が進められるのも認知行動療法の特徴である。
 治療に際しては、患者と治療者が一緒に患者の認知のあり方を検証していく協同経験主義がとくに重視される。その中でまず問題を明確化し、自動思考を同定、検討し、仮説/スキーマを同定、検討する。治療過程では、不適応的思考記録や宿題を通して認知のゆがみを検討する。認知のゆがみには、以下のようなものがある。
 ①全か無か思考(ものごとを極端に、白か黒かに分けて考えようとする傾向のこと。少しのミスで完全な失敗と考えてしまう)
 ②一般化のしすぎ(たった一つの良くない出来事があると、それが何度も何度も繰り返し起こるように感じてしまう)
 ③心のフィルター(わずかに良くない出来事にこだわって、そればかりを考えてしまい、その他の良い出来事は無視してしまう傾向)
 ④マイナス化思考(良い出来事を無視、あるいは悪い出来事にすり替えてしまう)
 ⑤結論の飛躍(根拠もないのに悲観的な結論を出してしまう。
  Ⅰ.心の読み過ぎ:相手の感情を早合点し思い込んでしまう。
  Ⅱ.先読みの誤り:事態は悪くなると決めつける)
 ⑥拡大解釈と過小評価(自分の失敗を過大に考え、長所を過小評価する。逆に他人の成功を過大評価し、他人の欠点は見逃す)
 ⑦感情的決めつけ(「こう感じるんだから、それは本当のことだ」というように、自分の感情を、真実を証明する証拠のように考えてしまうこと)
 ⑧すべき思考(「~すべき」、「~すべきでない」と考えてしまうこと。これができないと自己嫌悪や罪の意識を持ちやすい。また、他人に向ける怒りや葛藤を感じやすい)
 ⑨レッテル貼り(極端な形の「一般化のしすぎ」とも言える。一つのミスをしたことで完全にネガティブな自己イメージを創作してしまうこと)
 ⑩個人化(良くない出来事を、自分に責任がないような場合でも自分のせいにしてしまう)
 実際の臨床で認知行動療法は、たとえば衝動性をコントロールすることが課題の場合、その衝動性をコントロールすることに伴う、長所と短所を探っていくように患者に働きかける。たとえば、「そのような行動によって何を求めているのですか」「それを達成するために、もっと効果が上がって、害の少ない方法はありませんか」というような質問をして、破壊的な面の少ない、他の解決方法を見い出していく。とくに自分にとっては当たり前の考えだと思い込んでいることの多い自動思考(多くはマイナスな考え)を他の視点観点からの考えで反証する。

【摂食障害に対する認知行動療法の適応】
 実際には、以下のような手順を踏む。
■第1段階:「治療への動機付けと治療関係の構築・目標の明確化」  
 摂食障害のクライエントは、拒食や体重減少を自分にとって好ましいものと考えており、治療への動機付けに乏しいことが少なくない。また体型(ボディ・イメージ)に対する認知の歪みから自己評価が低く、治療の場に現れること自体を躊躇することも少なくない。
■第2段階:「セルフ・モニタリングによる行動的介入」
動機付け・治療関係が確立できれば、食事日記などの簡単なセルフ・モニタリングを始めることができる。動機付けを経て行われるセルフ・モニタリングはそれだけでも、食習慣や食事内容を改善する効果がいくらかある。また、今後の治療やクライエントとセラピストの話し合いに、豊富な素材を提供してくれる。この時期の面談は、セルフ・モニタリングをクライエントとセラピストとで検討すること、セルフ・モニタリングをしていてクライエントが感じたり考えたりしたこと、セラピストからはモニタリングを続けていることへの肯定とはげまし、そしてクライエントの疑問への返答や困難に関するアドバイス等で構成される。
■第3段階:「認知療法の説明と認知行動的介入」
 ABC図式(A:きっかけ→B:思考、信念→C:結果)などを使って、認知療法の原理を簡単に説明する。加えて摂食障害に多いB:不合理な思考、信念の例として、「私は食事のコントロールもできない」「スマートにならなければ嫌われる」「みんなに好かれるには完璧でなければ」などを紹介していく。クライエントによっては、本人の抱いている信念やスキーマを詳しく検討しなくても、その非機能性に気付く人もいる。認知療法についてのパンフレットや今日の説明の記録(録音テープやクライエント自身のノート)を読んでくることが、この時期の初期の宿題となる。
■第4段階:「ボディ・イメージについてのエクスポージャと脱感作」  
 ボディ・イメージについての認知を修正する必要がある場合に、エクスポージャ(暴露)を用いる。これに先立って
1)ボディ・イメージについて、身体的外見についての心理学、社会学の知見(どのような文化的・社会的メッセージが、ボディ・イメージの形成に関わっているか)、そして外見が人生に与える影響についての神話と真実(統計データ)などの情報提供を行ない、
2)ボディ・イメージに関する感情についてのコラム法を宿題にし、
3)クライエントのボディ・イメージについての認知が、クライエントの活動や人生にどのような影響を与えているか(また与えてきたか)について、セラピストと話し合うことなどが必要である。そして自分にとっていやな、(a)身体の部位と(b)ボディ・イメージに関してストレスを感じる状況を、それぞれについて階層表を作成する(ボディ・イメージについてクライエントがやってきたコラム法の記録が参考になる)。そして暴露と脱感作を計画したときから、リラクゼーション法の練習を行う。
■第5段階:「身体に関する自己効力感の向上、満足をもたらす行動をふやす」
 これまでの治療介入は、主として否定的な認知や行動をターゲットにしたものだったが、この段階ではクライエントの身体に対する肯定的な経験を進めるためのサポートと練習が行われる。
1)まず身体的活動のリストを見せて、クライエントに過去1年間でやったことのあるものを抜き出してもらう。その上で、それぞれの活動から得られた満足度と楽しさを数字(0~10)で表してもらう。また、それぞれの活動を(ア)外見に関するもの、(イ)健康に関するもの、(ウ)五感に関するものの3つに分類してもらう。セラピストは、それぞれの活動の分類について、他の見方があり得ることを示唆する。たとえばウォーキングについて、クライエントはダイエット法(体重を減らす方法)と考えて「(ア)外見に関するもの」に分類するかもしれない。それに対してセラピストは、ウォーキングが健康に関係することや、「朝の涼しさの中を歩いていく気持ち良さ」について話し、クライエントの分類を拡充していく。こうしてクライエントとセラピストには、実行可能で、(ア)~(ウ)にかんして3つともに関わる身体的活動、またうち2つに関わる身体的活動を抽出することができる。そうした活動の中から1~2つ選んで、毎日実行することを宿題とする。日記には、それぞれの活動から得られた達成感と喜びが記録され、これが次回のセッションで話し合われる。
2)この身体的活動日記についての話し合いの中で、こうした体にとってよい活動をもっと増やすためにはどうしたらしいかが議論される。望ましい候補があり(たとえばエアロビクス教室に通う)、その実行には練習やトレーニングが必要ならば、その手配をするように促す。話し合いの中で、クライエントの抵抗(たとえば、「エアロビクスはいいけれど、皆の中で、あんな体型がはっきりわかるような格好をするのは嫌だ」)が見つかれば、それについて認知的介入(認知の修正)や行動的介入を行い、あるいはこれまでの治療を振り返らせるなどして、クライエントを励まし支援する。
3)さらに直接に肯定的なボディ・イメージをつくっていくための介入を行う。
■第6段階:「 再発予防」
1)クライエントとセラピストはこれまでの恊働作業を振り返り、これまで達成してきたことを評価して、互いの協力に感謝し合う。また問題が残っている部分についても明らかにし、今後新たな行動やボディ・イメージの構築を目標にする。
2)ボディイメージに関して問題となる、やっかいな対人関係については、その対処法をセラピストを相手にしたロールプレイなどを通じて対策しておく。ロールプレイでは、まずセラピストが相手役をやり、その後クライエントが「問題の相手」を逆に演じて、最後に二人で感想を述べ合い、もっとよい対処がないか話し合う。この問題が、治療の初期に発見されていれば、もちろんその段階でロールプレイを導入しても良い。クライエントの環境を改善できる介入は、いつ取り入れても、治療にプラスに働く。
3)今後、問題になりそうな事態をクライエントは、セラピストの助言を得ながら予測し、それについての対処法をあらかじめ作っておく。つまりPACEの戦略を用いることで、ハイリスクな状況に対応するプランをつくっておくことで、再発は防止され、よきボディ・イメージの構築と、正しい食習慣などが維持されていく。


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