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小児の腹部腫瘤をきたす新生物の鑑別
2008.01.09 (Wed)
国試レベルで小児の腹部腫瘤で頻出である「神経芽細胞腫」「Wilms腫瘍」「肝芽腫」の3つは、以下のように特徴がある。
鑑別としては、以下のようなポイントがある。

まず、神経芽細胞腫の2大特徴を以下に記す。
他にも、神経芽細胞腫の重要ポイントとは、以下のようなものがある。
・小児の実質臓器に生じる悪性腫瘍の中で頻度は最多。
・腫瘍は交感神経節細胞由来である。原発部位として最多なのは副腎である。
・交感神経によって産生される生理活性物質はカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)であるため、それらの代謝産物であるVMA、HVAを大量に産生する。よって、尿中VMAを乳児6ヶ月スクリーニングに用いる。
・主な転移先は骨、骨髄、リンパ節、皮膚、肝などである。
・1歳未満の発症例では、自然治癒例がある。
・予後良好因子と不良因子は、以下のようなものがある。

step01の条件を満たさないものでは、「Wilms腫瘍」「肝芽腫」の鑑別に移る。「肝芽腫」ならば、血清α-fetoprotein(AFP)の上昇が記してあるはずである。

「Wilms腫瘍」「肝芽腫」の重要なポイントは、以下のようなものがある。
Wilms腫瘍
・好発年齢は5歳以下
・血尿よりも腹部腫瘤で発見されることが多い。
・腹部腫瘤は正中線を越えず、平面平滑
・無虹彩症などの奇形を合併することがある。
・肺転移しやすい(骨転移は稀)。
・治療薬はアクチノマイシンD
肝芽腫
・AFP高値
・黄疸を呈することは稀
・血行性に肺に単発性転移(骨転移は稀)。
【例題01】
3歳の男児。3週前から発熱と食欲不振があり、ときどき腹痛を訴えていた。次第に貧血が目立ち、下肢の痛みのため歩行ができなくなってきたので来院した。初診時、右上腹部全体を占める表面凹凸の硬い腫瘤を触知し、その左縁は正中線を越えている。胸部エックス線写真に異常はないが、腹部単純エックス線写真で腫瘤に一致して、不規則な石灰化像を認め、静脈性腎盂造影で明らかに腎盂像を認める。血圧は正常で、血尿は認められない。この疾患について誤っているのはどれか。
(1) 腹部交感神経節に原発することが多い。
(2) 尿中のVMA(vanillyl mandelic acid)の定量が診断に役立つ。
(3) 経過中に眼球突出をみることがある。
(4) 骨髄転移を起こしやすい。
(5) 早期に肺転移を起こしやすい。
a (1)(2)
b (1)(5)
c (2)(3)
d (3)(4)
e (4)(5)
問題:73C58
答え:b
×(1) 腫瘍は交感神経節細胞由来であるが、原発部位として最多なのは副腎である。
○(2) 交感神経によって産生される生理活性物質はカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)であるため、それらの代謝産物であるVMA、HVAを大量に産生する。よって、尿中VMA定量が診断に役立つ。
○(3)(4) 骨や眼窩への転移が多いため、関節痛や眼球突出がみられることがある。
×(5) 早期に肺転移しやすいのは、Wilms腫瘍の特徴である。
【例題02】
1歳5か月の男児。腹部腫瘤を主訴として来院した。発育と栄養状態とは正常である。左上腹部が膨隆し、径15cmの弾性硬、表面平滑な腫瘤を触れる。尿所見は正常。血液所見:赤血球378万、Hb11.0g/dl、白血球7,200、血小板22万。血清生化学所見:AST32単位(基準40以下)、ALT20単位(基準35以下〉、LDH770単位(基準176~353)。α-フェトプロテイン〈AFP〉正常。尿中VMA正常。診断はどれか。
a 肝芽腫
b 奇形腫
c 膵嚢胞
d 神経芽腫
e Wilms腫瘍
問題:98A36
答え:e
解説:
①左上腹部膨瘤→肝芽腫は否定的
②LDH770→悪性腫瘍を考える。
③血中AFPは正常→肝芽腫の可能性は低い。
④尿中VMA正常→神経芽細胞腫の可能性は低い。
故に、e Wilms腫瘍が正解である。
【問題03】
1歳2か月の男児。右上腹部の膨隆を主訴として来院した。右肋骨弓下に硬い腫瘤を触知する。発熱はない。赤血球380万、Hb 11.0g/dl、白血球7,200。血清生化学所見:総ビリルビン0.8mg/dl、GOT 60単位(正常40以下)、GPT 56単位(正常35以下)。α-フェトプロテイン80,000ng/ml(正常20以下)。最も考えられるのはどれか。
a 神経芽細胞腫
b Wilms腫瘍
c 肝芽腫
d 肝血管腫
e 肝膿瘍
問題:87E26
答え:c
解説:
①右肋骨弓下に硬い腫瘤
②AST60単位↑ALT50単位↑AFP80,000ng/ml↑↑↑
この2点から、肝芽腫であると考えられる。
【関連記事】
先天性心疾患について
成長と発達
神経芽腫 | Wilms腫瘍 | 肝芽腫 | |
部位 | 正中を越える | 正中を越えない | 右季肋下 |
性状 | 表面凹凸、硬 | 表面平滑、硬 | 表面凹凸、硬 |
随伴症状 | 眼球突出、骨痛、下肢麻痺、下痢 | 半身肥大、無虹彩 | なし |
検査 | 尿中VMA↑、HVA↑、血清NSE↑ | 腎実質腫大、腎杯拡大 | AFP↑ |
好発転移部位 | 骨、肝、眼窩 | 肺、肝 | 肺 |
鑑別としては、以下のようなポイントがある。

まず、神経芽細胞腫の2大特徴を以下に記す。
この2つの特徴を満たす場合は、神経芽細胞腫を考える。①正中線を越える。 ②腹部エックス線写真にて石灰化を呈する。
他にも、神経芽細胞腫の重要ポイントとは、以下のようなものがある。
・小児の実質臓器に生じる悪性腫瘍の中で頻度は最多。
・腫瘍は交感神経節細胞由来である。原発部位として最多なのは副腎である。
・交感神経によって産生される生理活性物質はカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)であるため、それらの代謝産物であるVMA、HVAを大量に産生する。よって、尿中VMAを乳児6ヶ月スクリーニングに用いる。
・主な転移先は骨、骨髄、リンパ節、皮膚、肝などである。
・1歳未満の発症例では、自然治癒例がある。
・予後良好因子と不良因子は、以下のようなものがある。
良好 | 不良 | |
年齢 | 1歳以下 | 1歳以上 |
病期 | 1,2,4s | 3,4 |
原発部位 | 縦隔 | 副腎 |
染色体 | 異常なし | 1q欠失 |
DNA | Aneuploid | Diploid |
MYCN増幅 | なし | あり |
Ha-ras発現 | 高 | 低 |
trkA発現 | 高 | 低 |

step01の条件を満たさないものでは、「Wilms腫瘍」「肝芽腫」の鑑別に移る。「肝芽腫」ならば、血清α-fetoprotein(AFP)の上昇が記してあるはずである。

「Wilms腫瘍」「肝芽腫」の重要なポイントは、以下のようなものがある。
Wilms腫瘍
・好発年齢は5歳以下
・血尿よりも腹部腫瘤で発見されることが多い。
・腹部腫瘤は正中線を越えず、平面平滑
・無虹彩症などの奇形を合併することがある。
・肺転移しやすい(骨転移は稀)。
・治療薬はアクチノマイシンD
肝芽腫
・AFP高値
・黄疸を呈することは稀
・血行性に肺に単発性転移(骨転移は稀)。
【例題01】
3歳の男児。3週前から発熱と食欲不振があり、ときどき腹痛を訴えていた。次第に貧血が目立ち、下肢の痛みのため歩行ができなくなってきたので来院した。初診時、右上腹部全体を占める表面凹凸の硬い腫瘤を触知し、その左縁は正中線を越えている。胸部エックス線写真に異常はないが、腹部単純エックス線写真で腫瘤に一致して、不規則な石灰化像を認め、静脈性腎盂造影で明らかに腎盂像を認める。血圧は正常で、血尿は認められない。この疾患について誤っているのはどれか。
(1) 腹部交感神経節に原発することが多い。
(2) 尿中のVMA(vanillyl mandelic acid)の定量が診断に役立つ。
(3) 経過中に眼球突出をみることがある。
(4) 骨髄転移を起こしやすい。
(5) 早期に肺転移を起こしやすい。
a (1)(2)
b (1)(5)
c (2)(3)
d (3)(4)
e (4)(5)
問題:73C58
答え:b
×(1) 腫瘍は交感神経節細胞由来であるが、原発部位として最多なのは副腎である。
○(2) 交感神経によって産生される生理活性物質はカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)であるため、それらの代謝産物であるVMA、HVAを大量に産生する。よって、尿中VMA定量が診断に役立つ。
○(3)(4) 骨や眼窩への転移が多いため、関節痛や眼球突出がみられることがある。
×(5) 早期に肺転移しやすいのは、Wilms腫瘍の特徴である。
【例題02】
1歳5か月の男児。腹部腫瘤を主訴として来院した。発育と栄養状態とは正常である。左上腹部が膨隆し、径15cmの弾性硬、表面平滑な腫瘤を触れる。尿所見は正常。血液所見:赤血球378万、Hb11.0g/dl、白血球7,200、血小板22万。血清生化学所見:AST32単位(基準40以下)、ALT20単位(基準35以下〉、LDH770単位(基準176~353)。α-フェトプロテイン〈AFP〉正常。尿中VMA正常。診断はどれか。
a 肝芽腫
b 奇形腫
c 膵嚢胞
d 神経芽腫
e Wilms腫瘍
問題:98A36
答え:e
解説:
①左上腹部膨瘤→肝芽腫は否定的
②LDH770→悪性腫瘍を考える。
③血中AFPは正常→肝芽腫の可能性は低い。
④尿中VMA正常→神経芽細胞腫の可能性は低い。
故に、e Wilms腫瘍が正解である。
【問題03】
1歳2か月の男児。右上腹部の膨隆を主訴として来院した。右肋骨弓下に硬い腫瘤を触知する。発熱はない。赤血球380万、Hb 11.0g/dl、白血球7,200。血清生化学所見:総ビリルビン0.8mg/dl、GOT 60単位(正常40以下)、GPT 56単位(正常35以下)。α-フェトプロテイン80,000ng/ml(正常20以下)。最も考えられるのはどれか。
a 神経芽細胞腫
b Wilms腫瘍
c 肝芽腫
d 肝血管腫
e 肝膿瘍
問題:87E26
答え:c
解説:
①右肋骨弓下に硬い腫瘤
②AST60単位↑ALT50単位↑AFP80,000ng/ml↑↑↑
この2点から、肝芽腫であると考えられる。
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