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トルソー症候群(Trousseau's syndrome)

2010.08.25 (Wed)
最近読んだ論文についてまとめていきます。今回は「トルソー症候群」について勉強しました。

担がん患者の脳梗塞
1865年に Trousseau は、腹部悪性腫瘍に遊走性静脈血栓症併発が多いことを発表した。次いで1977年には Sack らが Trousseau 症候群に微小血管炎、心内膜炎、動脈血栓症を伴う慢性 DIC が含まれることを報告している。近年ではTrousseau 症候群の定義は、悪性腫瘍により凝固亢進状態を生じ、脳の動静脈血栓症を併発して、様々な神経症状を呈する病態であり、傍腫瘍症候群の一つとしてとらえられている。

肺癌に合併する非細菌性血栓性心内膜炎の特徴とその意義
肺癌患者における非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis:NBTE)の特徴の意義を調べるため、 肺癌剖検142例の臨床病理学的検討を行った。11例(7.7%)にNBTEを認め、 組識型別には腺癌62例中8例(13%)、 扁平上皮癌35例中3例(8.6%)の順で、 小細胞癌(34例)にはNBTEの合併はみられなかった。一方142例中11例に病理学的に播種性血管内血液凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)がみられた.このうち4例(36%)はNBTE症例で、 DICとNBTEとの間には有意の相関を認めた(p<0.01)。NBTE11例中7例に全身の血栓塞栓症を認め、 その部位は脾(7例)、 脳(5例)、 腎(4例)、 心(3例)、 腸間膜(2例)であった。

抗リン脂質抗体症候群とTrousseau症候群
Trousseau症候群は、潜在性の悪性腫瘍の遠隔効果(remoteeffect)により神経症状を生じる傍悪性腫瘍神経症候群(paraneoplastic neurologic syndrome)の一つであり、悪性腫瘍に伴う血液凝固亢進により脳卒中症状を生じる病態である.脳は凝固外因系の引き金となるトロンボプラスチンが豊富で,トロンビンの拮抗因子であるトロンボモジュリンが乏しいため播種性血管内凝固異常症(DIC)の標的臓器となりやすい。

固形癌で過剰発現している組織因子は凝固カスケードを活性化するのみならず、癌の成長、血管新生、転移を促進することが知られている(J Cell Biol 140:1241-53,1998)。抗凝固療法の効果に関連して、低分子ヘパリンは抗血管新生作用があり、担癌動物モデルでアポトーシスを誘導することや(Cancer Res 60:6196-200,2000)、ヘパリンがインテグリン依存性の細胞接着を抑制して細胞間相互作用を抑制することにより癌転移を抑制するなどが報告されている(PNAS98:3352-3357,2001)。

Fragmin Advanced MalignancyOutcome Study(FAMOUS)では進行した固形癌385例にダルテパリン5,000単位かプラセボを投与し、1年間追跡調査したところ、低分子ヘパリン群で著明に生存率が改善したという成績が示されている(J CIinOncol 22:1944-1948,3004)。

脳梗塞を契機に診断に至った,卵巣癌に伴う非細菌性血栓性心内膜炎の1例
脳梗塞は心内膜炎の最も頻度の高い神経合併症であり、NBTEでは約1/3の患者に合併する。
NBTEの原因の一つとして、肺癌、膵臓癌、卵巣癌などの悪性腫瘍がある。組織学的には腺癌、特にムチン産生腺癌の合併が多い.ムチンは気管、胃腸などの消化管、生殖腺などの内腔を覆う粘液の主要な糖タンパク質である。ムチンを含む細胞表層の糖質の変化が、細胞の癌化の一般的な特徴として認められており、これらの変化が、細胞の接着性の変化、あるいは転移のような癌細胞の異常な挙動、免疫による防御からの回避に関与していると考えられている.担癌患者では血栓症の合併頻度が高く、このことはTrousser症候群としても知られている。

担癌状態で凝固亢進状態が起こり易い原因として、腫瘍細胞に発現する組織因子(tissue factor)、腫瘍細胞から血中に分泌されるムチンの関与が指摘されている。本例の卵巣癌細胞では、MUCIムチン、MUC4ムチン、MUC16ムチンが陽性であった。MUC1ムチンは上皮性悪性腫瘍に共通に高発現し、これら腫瘍の浸潤・転移に促進的に働く重要な予後不良因子の1つとして位置付けられている。MUC4ムチンは、膜結合型ムチンに属し.その発現が悪性腫瘍の予後に関与している。MUC16ムチンはCA-125と同じ分子と考えられており、本例の血中CA-125の上昇は、腫瘍細胞から血液中に分泌されていた結果と推定される、再発性脳梗塞を来たした担癌患者で血中CA-125が上昇していたとする報告71があり、血中CA-125の上昇と凝固亢進状態との関連が指摘されている。

CA-125は.卵巣癌細胞培養株に対して作られたモノクローナル抗体OC125によって認識される糖蛋白抗原で、上皮性卵巣癌の診断および治療効果の判定に有用である。血液中のムチンは、血小板表面のP-selectin、白血球表面のL-selectinと相互作用により血小板凝集を促進することが報告されており、本例においても類似の機序により心臓弁表面に血栓を生じた可能性が推定された。原因不明の脳梗塞患者においては、血中ムチンの測定は、凝固亢進状態及び潜在する悪性腫瘍のスクリーニングに有用と思われる。

心エコーで疣贅の出現と消失を認めた非細菌性血栓性心内膜炎脳梗塞の1例
NBTE は、外傷、局所乱流、循環血液中の免疫複合体、脈管炎および凝固亢進状態に反応し、心臓の弁および隣接する心内膜に無菌性の血小板血栓やフィブリン血栓が形成される病態である。脳梗塞は最も頻度の高い神経合併症で、NBTE 全体の約13 にみられるとする報告もある。一方、全剖検例中の1.3%、脳塞栓症剖検例では42.1% を占める。基礎疾患では悪性腫瘍が最多で、内訳としてSutherland らは肺癌、膵癌、胃癌、大腸癌、胆嚢癌の順に多いと報告し、日本人剖検例では、蔵本らは肺癌が24.8% と最も多く、次いで胃癌、大腸癌、胆道胆嚢癌、膵癌と報告している。婦人科系悪性腫瘍では、腺癌が大部分を占める卵巣癌や子宮体癌の合併は多いが子宮頸癌の報告は渉猟しえた限りで17 例(文献5 は腟癌、文献8 は子宮体癌・腟癌を含む)と少なかった。

NBTE との治療方針は原則腫瘍切除であるが、診断時点ですでに末期癌で手術療法などによる根治が難しく原因除去が困難なことも多いため、急性期はヘパリンナトリウムの持続点滴静注およびワルファリン、慢性期はワルファリンによる抗凝固療法を行うことが推奨されている。ただしワルファリンによる抗凝固療法はしばしば無効で20)、その場合ヘパリンナトリウムの持続静注または皮下注、アルガトロバンなどの抗凝固薬、低分子ヘパリン、合成蛋白分解酵素阻害薬、濃厚血小板・新鮮凍結血漿製剤、アンチトロンビン製剤を用いる。

卵巣癌を合併した 癌性脳梗塞 :Trousseau症候群の 1例
脳梗塞を併発する原因としては、以下のように考えられている。
ムチンを含む細胞表層の糖質の変化が細胞の癌化の一般的な特徴であり、細胞の接着性の変化と血液凝固異常に関与している。ムチンは、血小板や白血球との相互作用により血小板凝集を促進することが知られている。また、ムチンが凝固因子(第X因子)を活性化することも報告されている。

それに加え担癌患者ではCancer Pocoagulant(CP)、Coagulant Cancer Antigen-1(CCA-1)、Tissue Factor(TF)などの凝固系カスケードが活性化しその結果、血中D-dimerの高値を呈し、凝固亢進状態が起こりやすいと考えられている。

担癌患者の場合、血中D-dimerの著しい上昇は、Trousseau症候群合併の脳梗塞発症の予測因子となる可能性があり、早期診断と予防的治療が重要である。

大腸癌術後に認めた Trousseau症候群の1例
1865年にTrousseauは、胃癌症例で静脈血栓併発率が高いことを指摘しており、現在では悪性腫瘍患者の90%以上が血液凝固亢進を示し,50%以上に血栓塞栓症を認めると言われている。Trousseau症候群とは悪性腫瘍により凝固亢進状態を生じ、脳動脈・静脈血栓症を併発し脳卒中を引き起こすために、様々な神経症状を呈する病態で、傍腫瘍性神経症候群の一つに挙げられている。

古典的DIC を呈する以前のpre DIC や慢性DIC といった状態では、既に血管内血液凝固が生じているため、そ
れが神経症状を引き起こすことが問題となる。慢性DIC やpre DIC の状態では血小板やフィブリノゲンは代償されていることが多く、古典的DIC の診断基準を満たさないことが多い。

本症例は原発巣のみの切除であり、経過中に多発脳梗塞をきたした。原疾患、本症候群ともに増悪傾向にあり、根本的治療は困難であった。Trousseau症候群は悪性腫瘍の治療が予後を左右するため、ヘパリンを用いた抗凝固療法で神経症状の悪化を防ぎ、並行して速やかに悪性腫瘍の検索につとめる必要がある。


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